||地域振興研究||    |調査のねらい自由貿易地域の主類型わが国での提言わが国の保税制度

自由貿易地域
1.調査のねらい
 1996年の調査である。
 神戸では震災復興を図る観点から自由貿易地域が検討されていた。沖縄でも本土との格差是正、産業振興などの観点から自由貿易の設定を望む声がおきた。また、調査前年の1995年には、後に述べるように国土庁の研究会が「超規制緩和特区」に関する提言を出している。
 規制緩和の動き、低迷する日本経済の活性化への期待などを背景に、自由貿易地域に対する熱が高まっていた時期である。
 その後、いまだわが国では自由貿易地域は設定されていない。その一方で、例えば東京都の石原都知事が臨海副都心に「カジノ」を設けたいなど、自由貿易地域とは必ずしも一致しないが、「1国2制度」−自由貿易地域も一種の1国2制度−を望む声がある。
 自由貿易地域等について、今後どのような方向に向かうのかは定かではないが、現在の環境では導入が難しいと考えられる。しかし、導入が認められる時期が到来したときには、自由貿易地域は地域振興の有力な一方策として位置づけられるものと思われる。
  ここでは、その調査の一部、各国の自由貿易制度を整理したものを載せる。 
2.自由貿易地域の主類型

 主だった類型は、大きく3つになる。 

類型
特徴
導入国
自由貿易地域(フリートレードゾーン・FTZ) ・関税の免除・猶予に重点(さらに様々な類型に分かれる) アメリカ等多数
経済特区

・上記に加えて、企業所得税減税等の優遇措置
・広東省など5地区に設けられた「経済特区」や「14沿海港湾都市・沿海経済開放区」(このなかに12の経済技術開発がある)、「上海浦東新区」で構成
・経済特区は輸出加工区(下記参照)に似たものであるが、商業・金融区などを備える地域もあり、総合的な都市建設を目指す性格ももつ
・優遇措置には、各類型により若干の差があるが基本的には次のようになる
 @輸出品−原油等を除き関税等が免除
 A輸入−生産設備や原材料の関税等が免除
 B企業所得税−外資系企業は製造業に限らず商業等全産業で軽減。利益が出てから一定期間減免

中国
エンタープライスゾーン ・上記1,2に加え、開発規制等の閑話
・産業が極度に衰退した地域や荒廃が進む特定の地域での新たな経済活動を創出することが目的
・50haから500haに近い規模まで様々であるが、工場跡地を含む場合が多い
・指定日から10年間、以下の優遇措置が受けられる
 @開発規制−計画適合開発であれば自動的に許可
 A税−商工業用資産は地方税(固定資産税)免税、商工業用建築物等への法人税等を優遇
 B関税−手続き申請時の優先的取り扱い、基準緩和
 Cその他−行政手続きの迅速化 など
イギリス

【自由貿易地域】
1.概要
 ・輸出産業の振興、流通の効率化、これら産業の集積などを進め、最終的に地域の活性化につなげる
 ・様々な類型があるが、共通する特徴は関税面の優遇
 ・関税面での一般的な扱い
  @国内市場への出荷まで関税猶予
  A地域内持ち込み商品を第3国へ輸出する場合は無関税
  B商品チャックが可能であり、不良品等は非関税扱い
  C輸入割当が不適用
  D保管場所の変更が自由
  E試験・修理・展示会出品等が可能で、期間内は非課税
  F出荷時、完成品か部品輸出か関税で有利な選択が可能
 ・主な利用メリット
  @関税猶予等による経費節約
  A市場に対する効率的な対応(最適な価格で出荷が可能など)
 ・メリットが生きる主な具体的なケース
  @市場に適した商標をはったり、梱包などが必要な場合
  A外国製原材料を利用した製品を輸出・再輸出する場合
  B貨物量がまとまらない場合   など

2.自由貿易地域の諸類型

類型
特徴
導入国・地域
自由貿易地域(狭義) ・エリアが特定されて一定の場所。空港や港湾に設けられる
・外国貨物の搬入は関税対象外。第3国への積み替え、再輸出などが主目的。積出荷役施設が重要
・関税、輸入統制等は免除。法人税等の税や労働規制等は国内法適用
・商品販売は卸売ベースが中心。居住地区はない
アメリカなど多数
自由港(フリーポート) ・外国品は再輸出か域内消費に関わりなく関税が非課税
・中継貿易や加工産業に極めて便利
・自由港が領域全体か一部かふたつの場合があり、若干の差が生じる
シンガポール
香港 など
輸出加工区 ・設置目的は輸出産業振興による国内産業振興、外貨・外国企業の導入、技術力の向上など
・上記目的から発展途上国に設置されるのが普通
・外国企業は無税で輸出向け商品生産のための機器、原材料を持ち込める
馬山(韓国)
高雄(台湾)など
3.わが国での提言

1.スーパー規制緩和特区−自由貿易地域とは若干趣を異にする内容
 ・国土庁・地方産業ビジョン研究会「これからの地方産業政策の方向」(平成7年3月)での提言
 ・上記報告書では具体的な内容は明確ではないが、概ね次のような内容を想定
 【目的と手法】
  ・地域振興
  ・従来の手法では地域産業振興に壁がある地域に適用
  ・全国規模では影響の大きい規制緩和を地域限定的に適用
  ・全国に複数箇所設置
  ・地域特性に応じ、適用しない法令を選択
 【緩和内容−例示】
  ・外国人の就労規則の緩和
  ・海外基準を満たした製品の輸入自由化
  ・特内での外国酒の格安な飲酒
  ・建築基準法には合致しない輸入住宅の建築
  ・外国医師免許による医療行為
   
2.フリー・ポートX
 ・椎名素夫議員が中心となって提唱した構想
 ・制度の効果
  @経済摩擦解消などの国際経済効果
  A内外価格差の是正による国民生活の向上
  B産業創出などによる地域活性化
 【3段階での機能導入】

第一段階
第二段階
第三段階
市場・流通機能−ドルショップ・ゾーン 文化交流機能−エンターティメント機能 居住機能
金融機能−国際金融市場
ビジネス・産業機能−産業規制解放区 教育研究機能−オフショア大学・研究機関
国際交流・支援機能−ボランティア活動地区 医療機能−国際的医療機関

【主な機能内容】
 @ドルショップゾーン−使用通貨は原則USドル、輸入品は原則非課税 など
 A産業規制開放区−法人税等の引き下げ、事業税等の減免 など

 Bボランティア活動区−寄付に対する特別控除制度創設・適用 など 
 C国際医療機関−世界的レベルの医療行為

4.わが国の保税制度

 ●自由貿易地域とは異なるものであるが、参考的にわが国の保税地域について紹介する
 ●保税地域とは、例えば輸入貨物は特定の場所に入れさせ、関税の徴収や輸入規制等のチェック後国内取引が認められる。
  この特定の地域が保税地域である。
 【保税地域一覧】

種類
施設内容や目的・特徴
主な機能
指定地域等
指定保税地域 ・通関手続きの簡易・迅速処理
・低料金での関税手続き、荷さばきが可能
・臨港地区に立地

・外国貨物の荷さばき
(積み卸し、運搬、一時貯蔵)
・蔵置期限1ケ月

・国、地方公共団体が所有・管理する施設、土地
・港湾の埠頭など
保税上屋 ・指定保税地域を補完する施設
・施設所有者等が自らの事業に利用
・外国貨物の荷さばき
(積み卸し、運搬、一時貯蔵)
・蔵置期限1ケ月
・民間企業の倉庫等
・原木Acctなど
保税倉庫 ・取引円滑化と中継貿易に寄与する施設
・関税の納期時期の延長が可能
・外国貨物の長期蔵置
・蔵置期限2年間
・輸入貨物の倉庫等
保税工場 ・外国貨物の加工、外国貨物を原料とする製造施設
・加工・製造後の製品再輸出は非課税
・蔵置期限2年間 ・製鉄所等各種工場
保税展示場 ・関税が賦課されず簡易手続きで展示する施設
・イベント等の開催場所、期間に限定
・外国貨物の非課税展示
・期間は指定
・幕張メッセ、横浜美術館等で事例あり
総合保税地域 ・既存保税制度を総合化したもの
・土地・建物の一団性が問われる
・外国貨物の荷さばき、蔵置、加工、展示
・蔵置期限2年間
・FAZ(輸入促進地域)など

 (参考)FAZ−輸入促進地域
  ・目的:指定地域(港湾・空港や周辺地域)での物流施設等の整備と輸入促進を図る
  ・1992年に設けられた制度
  ・1995年の新たな税制が創設され、不動産取得税等の減免に加え、一定の者に対する特別償却減税等が認められている
  ・効果
   @物流コスト低減と輸入拡大
   A輸入ビジネスの拡大
   B地方空港・港湾の活性化、関連インフラ整備の促進

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